今回は、ヴァレーズの音楽を初めて知った時の体験談をお話しします。
ラジオから流れてくる音楽は、時によっては運命とも思える出会いの瞬間があるものです。FM番組表をチェックしていたならともかく、ふとスイッチをつけた途端に、知らない音楽が流れてくる時、「この曲は誰の作品だろう?」と脳が解析し始めるのは、クラシック好きにとってあるあるです。
それは25年ほど以前(おそらく1996年頃)、つまり前世紀末の風呂上がりの晩のことでした。ふいにFMラジオをつけた私の耳に、すごく入り組んだ音響のオーケストラの響きが飛び込んできたのです。まさに釘付けでした。
とっさに私の頭の中で推理が始まりました。この音楽の作曲をしたのは誰だろう?曲名は何だろう?思いつかないけれど、すごい音楽であることは疑いない。とりあえずエアチェックしなければ!と(今となっては懐かしの)MDに録音開始。もう途中からでも構わないレベルの知的興奮でした。
演奏後にノリのいい拍手(ヒューという歓声も)が鳴り響き、フェイドアウトしていくとラジオ解説者が、エドガー・ヴァレーズの『アメリカ』をお送りしましたと流れてきた。これが私のヴァレーズ初体験だったのです。
とはいえ当時はインターネットの普及していない時代だったので、ヴァレーズをググるわけにもいかず、後期ロマン派に近い才能を持つ作曲家がいる(いた)とわくわくし続けたものです。
この時の放送は、リッカルド・シャイー指揮アムステルダム王立コンセルトヘボウ管弦楽団(ACO)によるライブ録音でした。この頃のシャイーは脂が乗りきっていましたね。
エアチェックできたのは後半12分ほどだけでしたが、当時の私は繰り返し聴きつづけて『アメリカ』にすっかり夢中でした。
このライブ録音のCD化も期待したのですが、結論から言うと出ていません。シャイー&ACOのライブ録音集成に『アメリカ』が収録されていて期待もしたのですが、違う日のライブ録音のようです。音楽の雰囲気もノリもまるで違うものでした。どうして冴えないライブ録音をCDに使ったんだろう?
また、Deccaレーベルのセッション録音による全集もありますが、セッションの場合、音が冷静に構えてしまっている印象でした。サイレンのタイミング、舞台裏(?)のトランペットの効果、音楽素材のキレなど数え上げればキリがないほど、何かが違っていました。
それこそがライブの一期一会の醍醐味だといえるのでしょう。「いつか、また」なんて言っていては、永遠に機会を失ってしまうのが現実なのかもしれません。肝に銘じておかなくてはいけませんね。