チャイコフスキーの組曲『くるみ割り人形』作品71aを聴いていると、いつもすごく得をした気分になる。25分にも満たない短い音楽なのに、魅力が詰まっている。
ゴディバだとか、ラ・メゾン・デュ・ショコラとか、パティスリー・サダハル・アオキ・パリとかの高級チョコが、500円でてんこ盛りで詰め合わせされている感じがするよね。
はい、はい。
『くるみ割り人形』のストーリー
意外なほど知られていないのが、『くるみ割り人形』の内容。僕も知りませんでした。知らないので、いつも情景を勝手に補っていました。
もともとは1時間半を要するバレエ音楽。メルヘンチックなストーリーを持っています。それじゃ流れを整理してみます。
- 王子がネズミに呪われてくるみ割り人形の姿に変えられてしまう。
- 贈り物として少女の家に渡る。
- 子どもたちの所有権争いで壊され、えらい目にあう。
- 少女の家で、ネズミの集団とくるみ割り人形軍が戦闘を繰り広げる。
- 人形大に姿を変えた少女がネズミをやっつける。
- すると、くるみ割り人形は王子の姿に。
- お菓子の国への旅路と祝宴で盛大に幕を下ろす。
内容が中途半端な気するねんけど。
王家と庶民と呪いとメルヘンが盛られてます。
ディズニー映画が好きそうな路線。
すでにあります!実写ですが。
実写かあ・・・。
Disney's The Nutcracker and the Four Realms - Teaser Trailer
組曲とはなんだ?
こうして聴いていると、「組曲とは何か?」という根本的な疑問に立ち返ってしまいます。 組曲『くるみ割り人形』の8曲の流れが、とてもよくできているからです。
組曲は、バロック時代にはきちんと整備されたジャンルだった。すべてダンスという目的を念頭に置いていた。アルマンドで始まりジーグで終わる一連の曲は、楽曲の構成も定まっていた。儀式レベルです。
でも、チャイコフスキーの時代、つまりロマン派での組曲には、あっけないほど深い意味がなくなってしまいます。昔の組曲の在り方とはすっかり変わってしまった。
組曲という名前は同じでも、その大半はバレエ音楽やオペラの代表的な部分の寄せ集めです。
だから、『カルメン組曲』や『ペール・ギュント組曲』のような、メインの作品をぎゅっとコンパクト化した組曲作品が、この時代にたくさん出てくる。
組曲『くるみ割り人形』も、早い話が長大なバレエ音楽のメドレーにすぎないわけです。
その誕生秘話がイージーすぎるのも、バロック時代の儀式的なものの無さが浮き彫りになっていますね。
チャイコフスキーは急遽ロシア音楽協会から新作を盛り込んだ演奏会の依頼を受けた。ところが、手元に発表できる作品がなかった彼がやむを得ず作曲中のバレエから8曲選び取ったのがこの組曲である。
組曲『くるみ割り人形』の各曲
整理してみます。
のように、組曲全体は4つの要素に分けられます。出だしの序奏部分、次いで行進曲、そしてさまざまな踊り、最後に大団円です。
動画で見て分かる通り、編成は意外なほど小規模のオーケストラです。古典派レベルの人数。それでいてウィットの富んだ音が出せる点は、どこか後のプロコフィエフ『古典』を連想させます。
3拍子で書かれているのが、第5曲と第8曲の2つだけって、意外だわ。
そうそう、ディズニーの『ファンタジア』で第3曲以降が使われていました。オリジナルのストーリーとは無関係の、映像と音楽のコラボだけど。
アニメーションでストーリーでは採用しなかったけど、音楽だけは真っ先に飛びついたようね。ウォールトったら。
し、知り合いですか?
再リリースで配信限定のロストロポーヴィチ指揮の組曲『くるみ割り人形』。カラヤンの振る同じベルリンフィルよりもずっとクリアで、情緒豊かです。
アルゲリッチ&エコノムのピアノ4手による同曲もカップリングで、これまで当たり前でいた曲の編曲による思いがけない音の発見も楽しい一枚。
デザインがとても綺麗。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。記憶にとどまる良い音楽と出会えるといいですね。