クラシック音楽手帖

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そのバイオリニストは要注意人物!ナイジェル・ケネディの1980年代集大成ボックスセット

 

1. 野獣的なバイオリニスト

ナイジェル・ケネディ(Nigel Kennedy)というバイオリニストがいることを私が知ったのは、つい最近です。1980年代にはステージで活躍していたようです。その頃といえば、私の中での一番はチョン・キョンファの時代でした。

 

守備範囲に彼がいなかったのは、おそらく彼のレパートリーの狭さが原因だったのでしょう。これまでレコーディングされたのは、ほとんどがロシア系以外のコンチェルト。そしてJazzやロックとのフュージョン系の楽曲だったからです。

せめてプロコフィエフの一曲でもリリースしていたら、検索に引っ掛かっていたでしょうが・・・。

 

YouTubeで「Nigel Kennedy」を検索すると、人懐っこそうな目をして、ラフな服装でモヒカンに無精ひげでいつもリズムをとってヴァイオリンを弾く、非常に癖のあるオジサンが出てきます。なかには片手に飲み物(結構お酒飲んでそう)を持っている姿もみかけます。一見「だらしないなあ」(笑)。

 

アーティストとしての彼の評価は、かなり分かれるのではないでしょうか。パンク的な要素や90年代の引退復活をめぐる奇行、アカデミックな世界に馴染めないという発言など、どこか異端児的な性格が見え隠れしています。

 


Nigel Kennedy - The Four Elements

 

2. 『The Early Years 1984-1989』

『The Early Years 1984-1989』は、そんなナイジェル・ケネディが30代前半までに録音したCDの集大成です。7枚のCDがまとめられたお得版ですね。これまで一枚も持っていなかっただけに、ここぞとばかりに手に入れてみました。(CDも本と同じく、いつ店頭から姿を消すか、分かったものではないですからね!)

センセーションを巻き起こしたと言われる(知らなかった・・・)ヴィヴァルディ『四季』を含むコンチェルトものを中心に、さらにはバルトークのソロ作品も含んでいました。

 

でも、どうして目の部分に黒い線を入れる、意味ありげなデザインのボックスなんでしょうね?「気にするな」と言われると余計気になってしまうのが人の常。カラーも黒に黄色、それはいわゆる警告色ではないですか。「要注意」というメッセージですね。

ちなみに中身の紙ジャケットはオリジナルデザインを踏襲しています!ワーナーさん、やっぱり頑張っています。これだけでも高評価!

Early Years.. -Box Set-

Early Years.. -Box Set-

  • アーティスト:Kennedy, Nigel
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: CD
 

 

3.ウォルトンのコンチェルト

どうしてまた、今になってナイジェル・ケネディのCD7を購入したのか?

実は彼の弾くウォルトンの『ヴァイオリン協奏曲』の入手が、一番の目的だったのです。

CD4です。アンドレ・プレヴィンとの共演で、ウォルトンの『ヴァイオリン協奏曲』と『ビオラ協奏曲』をカップリングで収録されています。

そのジャケット写真の2人の表情が父と息子みたいに爽やかな自然体で、私はすごく気に入っていました。

 

いやいや、そこじゃない。この『ヴァイオリン協奏曲』の演奏が素晴らしく良かったのです(でも、オリジナルデザイン仕様でなければ、購入に踏み切らなかったと思う)。オンラインで視聴して愕然としましたね。

冒頭の次第に高まっていくヴァイオリンの意気込み、そしてプレヴィンの細やかなオーケストラ。双方が相まって相乗効果を見せています。

ナイジェル・ケネディがどのような癖があるのか、知らなくても構わない。このウォルトンさえあれば満足できる。

伴奏するプレヴィンは万全の体勢で、完璧にオケを振っています。コンチェルトを振らせるとプレヴィンはすごい。そしてケネディの決して億劫にならないソロは、このコンチェルトの危なっかしい感情の揺れを思いっきり疾走している。

 

 

 

4. それ以外の収録曲

全部紹介すると大変なので、3枚だけピックアップ。

 

CD1(1984年)Elgar: Violin Concerto

エルガーのコンチェルトは聴き込んだことがなかったのですが、メリハリの効いた文句なく引き込まれる演奏。オケとの相性もばっちり。それもそのはず、どうやらケネディの評価高い出世作だそうです。調べてみると、何度も仕様を変えては流通している録音でした。それだけに信頼度の高いディスクです。

 

CD6(1988年)Bruch: Violin Concerto No. 1 / Schubert: Rondo / Mendelssohn: Violin Concerto

ブルッフのコンチェルトもしっかり聴くのは、私としては初めてでした。どことなく民族調の哀愁漂う弦の響きは、その後のケネディのさすらい人としての性格を象徴しているのではと、ふと勘繰るほどのしっくりくる演奏。ジェフリー・テイトの指揮も渋くて、続くシューベルトのロンドではケネディを包み込んでしまっています。

メンデルスゾーンも想像を裏切って快演で、このディスクが今や廃盤状態にあることが惜しまれるほどの出来でした。情に溺れることなく、そのメランコリックな民族的旋律を冷静に奏でる音は、冷めた感性をもつケネディならでは。泣かせる隠れた名盤。

   

 

CD7(1989年)Vivaldi: The Four Seasons

200万枚以上を販売してギネス認定されたという記録的アルバム(だそうです)。ウィキペディアには「ポップスまで含めたヒット・チャートで6位」とありました。

が、UKチャートのHPで調べたところ、さらに上位の3位でした。参考まで下にリンク貼っておきます。

www.officialcharts.com

 2位のデヴィッド・ボウイと4位のフィル・コリンズに挟まれての、堂々たる3位!そのジャケ写の風貌がすでに古典からはみ出しかけているので、そんなに違和感はありませんでした(表右端のChart Factsの+をクリックすると、ランチャート[グラフでなく数字]が並んでいて、一番トップの3をクリックで当時のTop75を確認できます)

『秋』と『冬』に自由な即興を盛り込んだ点が、最も特徴的な一枚。全体的に大きな改変をおこなっているわけではないですが、やはりこの2か所は目立ちます。たぶん、ここで好き嫌いが分かれるところではないでしょうか。

 

 

これ一枚で『四季』を知ったというには、少し無理がありそうです。正伝に対する外伝のようなスタンスで楽しむといいのではないでしょうか。全体のリズム感も、バロックの風流より「いま」のキレを意識した感じがします。

当時はイ・ムジチ合奏団の豊満な響きが『四季』の世界で幅を利かせていた時代でした。この「新人類」の登場は、賛否両論をひき起こしたことは想像に難くありません。いずれにしろ、演奏の評価はその販売枚数が物語っています。 

  

5. ひととおり聴いてみて

ひととおり聴いた感想は、ナイジェル・ケネディを知らないでいたことが、もったいなかったな、の一言につきます。

1990年代から新しい方向性に歩み始める以前の、クラシックに近いスタンスのアルバム。微妙なバランスのなかで、彼なりに悩みながらもしっかりしたアルバムになっているという印象を持ちました。

ヴァイオリンのコンチェルトを初めて聴く方でも、親しみやすい一枚だと思いました。ジャケットはすごいですけれども(笑)

 

Early Years.. -Box Set-

Early Years.. -Box Set-

  • アーティスト:Kennedy, Nigel
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: CD