クラシック音楽手帖

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笑うラフマニノフ

厳しい表情の多いラフマニノフが、実は冗談好きで笑い転げていた人だったなんて、みなさん信じられますか?にわかには信じがたい作曲家の素顔を、今回ふと垣間見てしまいました。

にやけたラフマニノフはイメージとギャップありすぎちゃうか?

あれってイメージ戦略だったりして。

 

作曲家の表情、特に笑っている姿という印象は、あまり考えたことがありません。たいていの作曲家の写真や肖像画は、口を一文字に閉じているものが多いですね。
唯一、映画「アマデウス」に登場するモーツアルトが上げる笑い声だけが際立っている程度です(史実通りかは不明)。あれはどちらかといえば、爽やかというよりは落ち着かない笑い声でしたね。

 

 

 

たまたま回想録『ラフマニノフの想い出』(沓掛良彦監修、水声社、2017年)を読んでいると、こんな記述がありました。

 

「彼はユーモアが好きで、ときにはたわいない笑い話に涙が出るほど大笑いし、よく女性たちに冗談を言ったり、カードゲームをしたり、客に新しい良いレコードを聞かせたりするのを好む、きわめて愛想のいい客好きな主人だった(沓掛良彦監修『ラフマニノフの想い出』p.63)」

 

ラフマニノフが決して笑わないなどと言う人は、残念ながら彼自身がこんな話をするのを聞いたことがないからだろう(同上、p. 73-74)」

 

従妹の証言に出てくる、笑うラフマニノフに関するエピソードです。


確かに、ラフマニノフの表情といえば、堅苦しい顔つきの肖像写真しか思い浮かばないですね。CDジャケットに使われる写真は、厳しい表情でピアノに向き合うか、笑顔の一要素もない正面写真ばかりです。「セルゲイ・ラフマニノフ」でgoogleやBingの画像検索をしても、一枚として笑顔の写真は見つかりません。

 

Piano Concertos/Suites/Preludes

Piano Concertos/Suites/Preludes

 

 

ジャケット肖像写真だけでもニコ(⌒∇⌒)って笑っていたら、音楽に対する印象がかなり変わりそうです。

こんな感じに。

 

An Album for my Friends: No. 5, Gaynor's Gavotte

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ラフマニノフはカメラマンに写真を無遠慮に撮られるのが大嫌いだったようです。ポーズを指定されようものなら、怒り出す始末だったといいいます。こうしたカメラマンへの不満が不愉快な表情の写真として定着して、それが後に「ラフマニノフは笑わない」と印象づけているのかもしれません。

 

別の証人(オリガ・コニュスさん)も、ラフマニノフの愉快な一面としてこんな風に思い出しています。

 

ラフマニノフは身近な人とそうでない人とでは印象が正反対の人である。舞台でしか彼を見たことのない人の多くは、顔に仮面を被ったようなこの人物がおしゃべりして笑い転げたり小話をしたりするとは信じられないだろう(同上、p.119)」

 

もちろん、音楽家仲間で次のように回想をする人もいました。「めったに笑わない」とあるのは、身近でない人だったからなのかもしれません。

 

ラフマニノフはめったに笑わなかったが、笑うとこの上なく魅力的な表情になった。彼の笑いは周りも引き込まれるような心からの笑いだった(同上、p.148)」

 

特にステージ上での自らに対する厳しさは、仲間に厳しく映っていたはずです。

 

作曲家は終日部屋に閉じ籠って、ロウソク一本の暗い部屋で、始終髪を掻きむしりながら・・・というベートーヴェン神話に出てきそうな情景で暮らしていそうですが、それは思い込みにすぎないと思ったほうがいいかもしれないですね。

ラフマニノフにも意外な一面があることが分かって、少しほっとしました。

 今度は笑うベートーヴェンについての回想資料を、ぜひ見つけてみたいところです。

気楽な人なんか人付き合いが難しい人なんか、どうも、ややこしそうな人やな。

それを言っちゃあ、お終いよ。

 

 

 この本は入手が難しいかもしれないので、図書館でも探してみてはいかがでしょうか。ラフマニノフの人柄を知るうえで、重要な資料であることは間違いありません。

calil.jp