ヤバすぎるMP3の実像『誰が音楽をタダにした?』【ブックレビュー】

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今回は本(音楽関連)の紹介です。

ここ30年ほどの音楽産業は、いかに試練を経てきたのか?

音楽産業の表面的な側面からは絶対見えてこないウラの事情を、「どうしてそこまで?」というくらい露呈している本が、近年出版された。

それがスティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした?巨大産業をぶっ壊した男たち』(早川書房)である。すでに文庫化もされていて、それだけ需要のある本のようだ。

 

 

この内容はCDにも音楽にも興味がない人も知っておいて損はない。ここには、ひとつの一大産業がたどる避けられなかった宿命が、まざまざと描かれている。壮大な負のドキュメンタリーだ。

しかも、かつてCDというメディアは、僕たちの生活のなかで、大きな立ち位置を占めていた。今でこそ衰退の一途を辿る産業だが、安くはない対価を支払って音楽を聴く、という僕たちの消費生活の一部だった。そうですよね?


それがいつしか「タダ」という訳の分からない価値観を付与されるようになり、闇雲に消費されるなんて、どう考えても不条理。このような現状を生じさせたのは誰だったのか?それがこの本の明かしたいことだ。

架空のミステリーなら許されるとしても、ここに描かれていることはすべて現実に起こったこと。しかも、他人事ではない、すごく身近な僕たちの生活とつながっている話だ。

 

技術革新という当たり前の流れは、まさに両刃の剣となって、皮肉にも音楽産業自らを壊してしまった。

最大の原因は、音声データ圧縮技術MP3(エムピースリー)。その開発エピソードにも詳しく章を割いているが、かれら技術者にはまったく罪はない。あくまで記録方法の開発にすぎないからだ。

 

問題となるのは、新たな技術を使ってうまい汁をすすり出した闇の人たちの行為だ。音楽を圧縮してインターネット上で不特定多数に流せるようにすること。CDで成り立っていた音楽産業を、CDなしの流通で、著作権者の許諾なしでしてしまうということ。

 

リリース前のCDを工場から盗み出す人、MP3に変換してオンラインにupする人、かれらの顔の見えないコミュニティ。

目に見えて音楽産業は崩壊していき、オンライン配信を整備するなど手を打つものの、対策は遅すぎた。

 

犯罪に手を染めた当事者からの聞き取りをもとに構成された本書は、「音楽産業の衰退とマーケティング」のような結果だけの分析では知ることのできない、根本的な原因を暴き出している。早い話が暴露本だ。

表向きの現実はきれいごとだけのニュースで知ることはできる。でも、これほどまでに末期の様相を帯びていること、その背景については知らされていない。

これが音楽産業界に現実に起こったという驚きと、あらゆるリスクマネジメントの在り方も含めて、かなり考えさせられる一冊だった。