お気に入りのプロコフィエフ10曲

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僕はプロコフィエフの作品がとても好きで、たくさんの録音を聞いている。中には一度聞いただけでご無沙汰という曲もありますが、他の作曲家と比べるとはるかにリピート率が高いです。

プロコフィエフソビエト連邦の代表的な作曲家。一時期は国外に活動の場を移して、西欧の空気に触れていて、のちに再び祖国を活動の拠点とします。作曲のジャンルはオペラから交響曲、協奏曲、室内楽、歌曲まで、幅広く活動していました。だから、特定のジャンルしか聞かない人でも、耳にする機会は多かったりします。

今日は僕が個人的にリピ率の高いプロコフィエフ作品を、簡単に10曲ほど紹介してみます。

 

ヴァイオリン協奏曲第1番

亡命前後のプロコフィエフの若い頃の作品。浮遊するような感覚と悪魔的な感覚が共存している。音楽としてかなり際どいのではないかと、聞くたびにひやひやしてしまう。

ヴァイオリン協奏曲といえば、ベートーヴェンでもブラームスでもメンデルスゾーンでも、たいていはしっとりと聞かせる。いかつい交響曲を書く割に、ヴァイオリン協奏曲だけは甘い。でも、プロコフィエフは彼らしい灰汁の強いヴァイオリン協奏曲に仕上げている。

難しい音楽にしようという思いより、やりたいようにしたら自然と出来上がったような、自由奔放さがとてもいい。


Prokofiev: Violine Concerto No. 1 / Batiashvili · Fischer · Berliner Philharmoniker

 

オペラ《賭博者》

Prokofiev: Gambler [Blu-ray] [Import]

Prokofiev: Gambler [Blu-ray] [Import]

 

ドフトエフスキーの小説をオペラ化したもの。一度脱稿したあと、再度大きく書き直した完成度の高い作品。繰り返し聞いているうちに、病みつきになってしまった。

独唱を朗々と歌わせるよりも、掛け合いのリズム感がこのオペラの重要なポイント。テンポよく進むので、大半がセリフであることを忘れて聞き入ってしまうほどだ。後半、主人公がギャンブルを当てまくるシーンは、悲喜こもごものドタバタぶりがいつも楽しめる。


TRAILER | THE GAMBLER Prokofiev – Lithuanian National Opera & Ballet

 

交響曲第1番「古典」

プロコフィエフ:交響曲第1番「古典」&第2番&第6番&第7番

プロコフィエフ:交響曲第1番「古典」&第2番&第6番&第7番

  • アーティスト:小澤征爾
  • 発売日: 2015/02/18
  • メディア: CD
 

  ハイドンの様式を借りながら、現代風のアレンジをふんだんに散りばめた小品。だから、タイトルは「古典」。でも、古典派の亜流の域を越えた独創的な音楽だ。

ピアノを使わずに頭の中だけで作曲したという。その効果があって、覚えやすく聡明な旋律に仕上がっている。鋭いイメージの濃いプロコフィエフのなかで、例外的な軽快さがある。終楽章の疾走感は、ロシアというより、アメリカ的な解放感をいつも覚える。

なお、第3楽章「ガヴォット」は、後の彼の作品にもリライトされるほど、お気に入りのナンバー。


Sergei Prokofiev - Symphony No. 1 in D Major - with Valery Gergiev

 

交響曲第2番

Symphony 2 / Romeo & Juliet Suite 1

Symphony 2 / Romeo & Juliet Suite 1

  • 発売日: 1992/10/09
  • メディア: CD
 

 第1番とは対照的に、荒々しく鋭角的かつ神秘的な交響曲。「古典」の成功を二番煎じすることなく、媚を売らない路線を明確に出している。一見、交響曲と分からない独特な2楽章構成になっている。第2楽章は変奏曲形式で、短いパッセージのつらなりは小さな楽章の連続にも聞こえる。それぞれの変奏の完成度が極めて高く独創的。最後の変奏の大団円は狂気を含んだダイナミックさで、どこか祇園囃子(ばやし)を連想させる木管も聞きどころで好き。

 

当時の機械的なアートの流行に、プロコフィエフなりに敏感に反応した作品。初演後「何を作曲したのかわからない」と自ら反省する後日談がある。だが、荒れる所もゆったりした所も、音楽を越えた才能の発露で満ちている。プロコフィエフの評価をこの第2番で確実なものにしたくらい、僕にとって思い入れが深い。 

Symphony No. 2 in D Minor, Op. 40: Variation 1

Symphony No. 2 in D Minor, Op. 40: Variation 1

  • provided courtesy of iTunes

 

ヴァイオリン・ソナタ第1番

この曲について音楽評論家の吉田秀和が「がりがりとした音楽」と言ったことがある。あながち間違いではない。ヴァイオリンがおおらかに歌うより、遠慮構わずガシガシ弾く。第2楽章と第4楽章なんて、アドレナリン出しすぎな勢いだと思う。

個人的には第3楽章がおすすめだ。前後の楽章とうって変わって、神秘的な緩徐楽章。歌詞をつけて女性ジャズシンガーが歌っても違和感がないくらい、ソウルフルな音楽だ。誰か歌ってくれないだろうか?心地いいというより、ゾクゾクする。心の芯から揺さぶってくる。型にはまらない、第1楽章の前衛ぶりも魅力。

 
Prokofiev. Violin sonata No 1. Part III. Alena Baeva, Guzal Karieva

 

ピアノ協奏曲第3番

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲全集(SHM-CD)

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲全集(SHM-CD)

 

プロコフィエフの鋭角的な一面とユーモラスな一面が、バランスよく合わさった作品。ピアノ協奏曲といえば風格があり、感動があり、華麗なイメージが根強い。だが、この第3番は等身大な音楽で、決してきらびやかではない。青い空を背景にした都会的な響きが垣間見え、20世紀風未来を予見させている点こそが聞き所。スピード感に満ちて爽快だ。要所要所にキャッチーな聞かせどころを持っているので、飽きがこない。


Sir Antonio Pappano with Martha Argerich - Prokofiev: Piano Concerto No. 3 in C Major

 

フルート・ソナタ

のちにヴァイオリン・ソナタ第2番として編曲もされ、フルートの原曲のほうが影が薄くなった印象もある作品。フルートの原曲と比較すると、同じ音楽でもアプローチが違って聞こえるから不思議だ。

ヴァイオリンはその「弦を引っかく」という音色のせいだろう、一筋縄ではいかない苦みを含んでいる。同時に、過去の時制を思い浮かべてしまう。一方でフルートは今、現在進行形の時制で聞こえる。「息で吹く」という呼吸に近い身近な音楽として、身体的に近しい音楽として、フルートの原曲だと感じられる。

全体にまったく無駄がない音楽で、旋律同士のあいだのつなぎ目も、全然飽きがこない。


S. Prokofiev: Flute Sonata, op. 94. III. Andante

 

十月革命20周年のためのカンタータ

Prokofiev: Cantata for the 20th Anniversary of the October Revolution

Prokofiev: Cantata for the 20th Anniversary of the October Revolution

  • 発売日: 2017/11/24
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 ロシア革命を描いた政治的な作品。政治的だといっても、すでに存在しないソ連の音楽。プロコフィエフの意欲作だったらしく、周囲から何らかの理由で止められて非公開っとなった後も、異なる形でリライトされていった。

極めてとんがった音楽で、プロコフィエフても指折りのブチギレぶりだと思う。使用される楽器も、機関銃やサイレン、アコーディオン、スピーカーを使ったセリフ、足音まで、使えるものはなんでも登場している。

 
Prokofiev: Revolutionary Cantata, Op. 74 | Staatskapelle Weimar & Kirill Karabits

 

悪魔的暗示

Prokofiev: Complete Piano Music, Vol. 5

Prokofiev: Complete Piano Music, Vol. 5

  • 発売日: 1992/01/01
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 初期のピアノ曲で《4つの小品》作品4の終曲。演奏技術も旋律も半端なく鋭角的で、どや的な雰囲気をアピールしまくる。どやもここまで極めれば紙一重の域に入る。このレベルでプロコフィエフ学生時代の作品というから、才能としか言いようがない。

この曲を生で、ピアニストの練習を聞いたことがある。スローテンポで音をさらっていくほど、不安定な旋律と和声が、幻想的な未来都市が現れてくる思いがしたものである。


Prokofiev: Suggestion Diabolique, Katharina Treutler I piano

 

束の間の幻影

Piano Works Vol 5

Piano Works Vol 5

  • アーティスト:Prokofiev,Chiu
  • 発売日: 1996/03/11
  • メディア: CD
 

 《束の間の幻影》は20曲からなるピアノの小品集。当時、詩人との交流からインスピレーションを受けて作曲された。ソナタとは違った、詩的で視覚的な魅力を散りばめた異色作。各曲はそれぞれ独立しているが、最初から最後までぶっ通して聞くほうが、作品の内包する世界観=詩的世界に馴染めると思うのでおすすめの聞き方。変奏曲だと順番通りに聞いたほうがいいのと似ている。

内面を掘り下げた表現なので、内省的な気分のときにうまく聞くと涙腺がゆるむ。

 


Prokofiev: Visions Fugitives, Op.22, no. 17

 

同じプロコフィエフの作品といっても、それぞれの曲で違う個性・世界観を持っていて、聞くたびに「同じ人の作品?」と疑うほど。だからこそ、飽きずに30年近く聞いてきました。2021年もプロコフィエフの新しい録音が出てくるといいですね。