クラシック音楽手帖

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小澤征爾のフォーレは静かに回想的に流れる

小澤征爾の指揮するフォーレ管弦楽曲集を購入したので、少し感想を書いてみます。この盤に今ごろ気づくなんて、時代から遅れてしまっていると猛省している次第です。

 

ガブリエル・フォーレの作品のCDを手に入れたのは久しぶりで、どれも《レクイエム》ばかりでした。コルボの名盤と、スウェーデン放送合唱団の歌う盤の2種類。相当偏った聞き方をしていましたね(汗)。

 

 

ボストン交響楽団在籍時の小澤征爾が録音した1986年録音の盤は、フォーレの名曲の中でも主要なものが粒ぞろいです。ジャケットの絵柄がすごく静かで、あれ、なんか違うかもという印象があります。収録曲は、全部で5曲。

  1. 劇音楽《ペレアスとメリザンド》 Op. 80
  2. 夢のあとに Op. 7-1(デュベンスキーによる編曲)
  3. パヴァーヌ Op. 50
  4. エレジー Op. 24
  5. 組曲《ドリー》 Op. 56(アンリ・ラボーによるオーケストラ編曲)

 

 

ペレアスとメリザンド

前奏曲」の出だしからしっとりした選曲で、華やかというよりしんみりと音楽に浸ってしまう自分がいました。小澤さんの音ってこんなに映像的で温かかったっけなと、ネットで視聴してからずっと不思議で、今回の今さらながらの購入に至りました。(それは私が小澤さんのプロコフィエフの現代曲ばかり聴いてきた、先入観が理由にあると思われます)

ひとつひとつの楽器の響きが非常によく調和した録音です。まるで映画音楽のような回想的シーンを見るような雰囲気。名曲「シシリエンヌ」もそのひとつでした。なお《ペレメリ》は宿命的な悲恋をテーマにした物語です。

 

「夢のあとに」

原曲は歌曲として作曲され、夢で出会った女性への切ない恋を歌っています。この小澤盤ではオーケストラ伴奏による編曲版を用いて、原曲の歌詞の失われた世界を楽器で補てんしたかのような、幅のある響きになっています。

余談をひとつ。タイトルだけでは気づきにくいかもしれませんが、『北の国から』の「秘密」の回で効果的に使われていたチェロ音楽が、「夢のあとに」です。覚えてらっしゃる方もいるのではないでしょうか?蛍が道ならぬ恋におちいった話でカーラジカセから流れる、とても想い出に残る曲です。

  

Après un rêve, Op. 7, No. 1

Après un rêve, Op. 7, No. 1

  • provided courtesy of iTunes

 

パヴァーヌ

合唱付きの版を収録。愛にまつわる、少し観念的で複雑な歌詞を謳っています。

 

「エレジー

悲歌。哀悼の歌とも解釈できる一方、この音楽の作曲時にフォーレ自身が婚約破棄されるという出来事が暗く影を落としており、恋に対する悲歌と解釈することができるようです。

ここまでの楽曲のテーマは、いずれも悲しい恋心に関連付けられた選曲ということに気づきます。フォーレの場合、その感情は複雑に破綻するよりも、沈殿していくかのような沈黙へと落ちていく印象があります。ワーグナーが燃え尽きるまで燃えてゆき、障壁に対して攻撃的だったりするのと対照的です。

 

組曲《ドリー》

愛に包まれた素朴さで締めくくられます。《ドリー》は子ども向けのピアノ連弾として作曲されたもの。ピアノでの協調し合う響きが素晴らしく、とりわけ第1曲「子守歌」はよく演奏されています。その柔らかな調性の移り変わりは、技巧的なピアノの響きから、この小澤さんの録音に聞かれる管弦楽の広がりにより、解放された感じに満ちているように聞こえます。

 

Dolly, Op. 56: 1. Berceuse

Dolly, Op. 56: 1. Berceuse

  • provided courtesy of iTunes

 

この沈滞したような雰囲気の漂うフォーレのアルバムは、音質や管弦楽のまとまりの良さ、そして選曲の工夫に特色があるように感じました。恋愛の苦しみと脱却という、アルバムの構成に優しさを感じてしまいます。フォーレの魅力に触れるには、最初の一枚としても再発見の一枚としても、この小澤さんの盤は発見の多いものではないでしょうか。

 

フォーレ:劇音楽《ペレアスとメリザンド》他

フォーレ:劇音楽《ペレアスとメリザンド》他