悲しいときにどうしようもない気分に落ち込むことは、それはなかなか止めることはできません。
起きてしまったことは、遡ることはできなくて、元に戻ることができない。
人の死はなおさらそう。
すこしでも落ち着けるのなら、そうしたい。救いになるのであれば、すがっていたい。
そんな想いは今も昔も変わらない。
リルケの詩にヒンデミットが作曲した歌曲集「マリアの生涯(Das Marienleben)」。
ひとりの女性の生から死まで、そして息子の生から死までを(聖母子の生涯ですね)、研ぎ澄まされた感性で表現した作品です。
詩は抒情詩、つまり感情的な内面に焦点をあてた詩で出来ています。一見、それが意味するものが聖母の生涯のどこを指すのか、わからない。すごく背景のぼけたF値の小さい写真のように、輪郭は見えなくても言わんとする世界観を鑑賞側が補っていく。上手く説明できているかどうかわかりませんが、そんな詩です。
聖母子という宗教的なテーマを扱っていても、世俗にまみれたソウルが満ちた、20世紀の感覚で語った音楽です。
Das Marienleben, Op. 27: No. 1, Geburt Mariä
第1曲「マリアの生誕」。無垢で夢見がちで、どこか物憂げでもある音楽。これからの未来を予感させる、聖母マリアのはじまりの音楽。
Lavaux Classic 2008 - Paul Hindemith - Das Marienleben, "Maria Verkündigung"
ヒンデミットの歌曲集「マリアの生涯」作品27から第3曲「受胎告知」。彼のピアノ・ソナタを彷彿とさせる、たゆたうような雰囲気の伴奏。
この音楽は1948年版に収録されています。
どうしてあえて「版」を言ったかというと、1923年に作曲された最初の版では旋律が異なるからです。折角、この雰囲気を楽しもうと思ったのに「入ってないやん💢」ということにもなるので。
詩はマリアのもとへ天使が訪れる様子を、たくさんの比喩を用いて表現しています。そして終盤、 「それから天使は旋律を口ずさんだ」と締めくくります。肝心の受胎告知の天使の言葉が「歌った」で省略され、その内容がこの詩からはわかりません。「受胎告知までの情景」と言い換えたほうがいい気もします。
神秘的でどこか危険なイメージも読み取れる詩で、音楽のほうも深い水面を覗き込むような、独特なイメージを持っています。
歌曲集「マリアの生涯」を聴いていると、甘えのないどこか凛とした空気のある非幻想的な宗教音楽ですが、心のひだに引っ掛かってくる何とも言えない雰囲気に満ちています。どこか救いの兆しの見えてきそうな音楽。
まだ全15曲までしっかり理解しきれていませんが、この音楽の旅をたどってみたい。じっくりと消化してみたい。そんなヒンデミットの歌曲集「マリアの生涯」でした。
追記
この配信日の夕方、つまり今日、お風呂から出るタイミングで、誰かが電気を消した。暗くなった。誰だろう、と妻と息子に尋ねたけれど、誰でもなかった。妻が確認しに行くと、電気はフツーに点いていた。
きっとメッセージだったのかな、となんとなく思った。そういう人なんだろう。あちこちでそうしてるに違いない。今さらではあるけれど、今は感謝しかない。ゆっくりと楽しんでからゆっくりと旅立っていくのもいいかもしれないですね。ありがとう。
さらに追記
前回のあと、今度は料理酒しかも大きめの紙パックを冷蔵庫に移動させられていました。ペットボトルの料理酒なら勘違いもありそうですが、さすがにこれは家族の者も間違えません。
ありがとう。