クラシック好きの休日

隔日更新。特にクラシック音楽と本について。

他人の想い出のインストール~斎藤由香『猛女とよばれた淑女』

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伝記というジャンルは、ある人物の偉業を書き残す。楽しく読んだ斎藤由香『猛女とよばれた淑女:祖母・齋藤輝子の生き方』は、伝記の概念からは外れるかもしれない。「偉業」ではなく、「生き方」といったほうが合っている。

紙で出版されるのもいつまでだろう、と思う旬のある本です。

齋藤輝子は歌人・齋藤茂吉の妻であり、斎藤茂太(モタ先生の・・・で知られる精神科医)と作家・北杜夫の母であり、斎藤由香は孫にあたる。

こう生きたい、という彼女のブランドを生き抜く。海外旅行、食へのこだわり。

「私はこんなにすごい」となにげに訴えるキラキラ系のブロガーも似たようなものだけれど、輝子の場合は自ら発信するわけではない。自身の生き方として完結している。

そして常に凛として家族と接し、凛として世間と接する。気に入らないものは気に入らないとはっきり言う。店で食べている時でも、不味いものは不味いと言う。同席する人をひやひやさせる。

息子・北杜夫が躁鬱でてんやわんやでも、手を差しのべるでもなく、行きたい国へ旅をする。息子が躁で株にのめり込んで破産しようが、息子は息子。母は母。親と子はこんなに割り切ったものかとびっくりするほど、母は母の残された人生を生きる。

 

この生き方が素晴らしい、というよりも、憧憬のような親しみが孫の筆から読み取ることができる。スーパーマンはカッコイイ、でもだからといってスーパーマンになりたいとは思わない、スーパーマンの活躍を応援したい、そんな感じだろうか。

 

茂吉とのエピソード、南極やエベレストでのエピソードなど、一人の女性がたどった生き方が私のなかに淡く焼き付く。読むほどに、他人の祖母の想い出がインストールされる。

孫の視点から描いた本著のなかに、『母の影』のタイトルが現われる。「ああ、あの本か」と、思わず積読の奥から引っ張り出すことになった。北杜夫の著作だった。

 

母の影

母の影

 

 紙で持っておくと、ひょんなことから出会いがある。北杜夫にしてはシリアスなテーマだと思いつつ、まだ読んでいなかった。戦時中の純文学風な出だしから、北杜夫の側からの母への追憶を読み始めている。

『猛女とよばれた淑女』の読後、もし、『母の影』を積読されている方は、探し出してみよう。

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