クラシック好きの休日

隔日更新。特にクラシック音楽と本について。

人生疲れてませんか?そんな時、ブルックナー『交響曲第9番』

 昔、芸大で教えていた上浪渡先生が「作曲家のつくる作品は年を取るにつれてつまんなくなっちゃうんだけどね」と、老いても衰えなかったストラヴィンスキーベートーヴェンを褒めちぎっていたのを、ずっと覚えています。

ブルックナー最晩年の『第9番』もいいですよ、と今の私は発言したいけれど、上浪先生ももうとっくにあの世に召されてしまいました。ジージャンとサングラスのよく似合う先生でした。

 

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ブルックナーの『交響曲第9番』の良さは、スカッとした潔さのなかに、ブルックナーの見ている世界観が織り込まれているところです。それは晩年をイメージさせる暗さとはまるで違います。この交響曲には「神に捧げる」と書き込みがあるらしく、確かにすっと抜けるような音は、人の煩悩からかけ離れています。

博士号が欲しいとか創作資金が欲しいとかナンパするとか、煩悩だらけの人だったという逸話もあるのに、創作ともなると人が変わったようになる。ブルックナーは間違いなく天才だと思います。

『第9番』は不協和音や荒れる響きや盛り上がりはあれども、音楽の流れは澄んだ川のように素朴に一本でできています。厳しさが備わっているけれども、人の心が通っている。人の歌がまるで人から遊離したみたいに響いている。そこには豊かな説得力も流れている。

 

この音楽は疲れた時に聴くと、心を叩き起こしてくれる。そして、バラバラだったりドロドロだった思考の背筋をびしっとただしてくれる。特に第1楽章の集中力は、ラストにかけて一気にアクセルを踏む感覚。もはや神がかり的です。恋や死に溺れるやわなロマン派というカテゴリーと一緒にすることが、ためらわれる。

さらにブルックナーとしては珍しいテンポの爽快な第2楽章です。荘厳さと爽快さが交互に転がる不思議なスケルツォ

極めつけは、第3楽章アダージョでクライマックスを形成する。不思議なことですが、彼の交響曲は4つあるうちの3つ目のアダージョ楽章で頂点を迎えるようになっている。限りなく荘厳なテーマと限りなく世俗的なテーマが交互に絡まりながら、音楽は上へ上へと昇っていく。ほんとうに煩悩がない。私生活の彼は、一体どこいっちゃったんでしょうか?

 

お薦め盤ですが、幾通りか聴いてきた盤の中でも、ストレートに感動させてくれて、何度と聴き返しているのが、ギュンター・ヴァントケルン放送交響楽団と録音したもの。1978年の録音。すごい骨太です。

 

Bruckner: Symphonies No.1 - 9

Bruckner: Symphonies No.1 - 9

  • 発売日: 2010/11/05
  • メディア: CD
 

 

実はこのアルバム、『第9番』以外も私の愛聴盤。例えば『第3番』もこの盤で聴きこなしたものです。

人生疲れてませんか?そういう時、ブルックナーでしょう。

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