クラシック好きの休日

隔日更新。特にクラシック音楽と本について。

他人事でない『ルポネットリンチで人生を壊された人たち』

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 SNSはお手軽な発信源。

でも、発言を一歩誤ると、取り返しのつかないことが起こる。

ネットワーク上に出た言葉や写真は、時に魔女狩りにあう。

 

その事例を調べたジョン・ロンソン『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』は、追跡取材を通して、その怖さを克明に記している。

興味本位で書かれた本ではない。

著者が関心を抱いたキーワードが「公開羞恥刑」。原題が「だから君は公開羞恥刑に遭った」。

「公開羞恥刑」は古い形式の刑事罰の方法だった。大衆の前でむち打たれたり、「私は○○という罪を犯しました」というプラカードを持って立たされたりする。一見、長期の懲役刑に比べると軽い刑罰に感じられる私だが、実は「羞恥刑というのは、とてつもなく残酷な手続き」(p.96)らしい。自尊心が破壊されてしまうらしい。むち打たれている間、多くの見も知らぬ人々に罵倒されるからだ。知らない人から罵倒されながら死を迎えたいとカミュ『異邦人』の死刑囚は締め括るが、「羞恥刑」は罵倒されて精神をずたずたにされて尚、生きていかなければならない。

 

この「羞恥刑」がインターネット上で復活したのが、実は「ネットリンチ」なのだという。感情のスイッチを切らないと生きていけないくらい、傷ついていしまう。世界中から言葉で叩かれ、言葉で脅される。プライバシーさえ暴かれ、職場にまでアクセスされ、仕事を失う。

 

ひとつひとつの事例を読んでいくと、一人への不特定多数による炎上攻撃は「遊戯」ですらある。正義はこれほども残酷なものなのだろうか。たぶん、違う。正義のヒーローは誰かのたった一言をあげつらって、失職させたり、危害予告をしたりしない。

 

怖い。

Twitterでのなにげない発言が、なにを引き起こすかわからない。

 


Radiohead - Burn The Witch

 

なにげにレディオヘッドの音楽。これもSNSの現状を揶揄したものなんですよね。

 

普段はフォロワーでさえない人までが、ネット上のあらゆる手を駆使して個人情報をあぶり出す。ほんの些細な失言を許さない、不寛容なネット市民による攻撃の恐ろしさ。

 

著者はこうしたネット上の公開羞恥刑から、どうすれば立ち直ることができるのか、問うてゆく。炎上したものの中には、長期間くすぶり続けたものと、意外なほど短い期間で終息したものがあることに、著者は関心を抱く。そして、インターネット上の消えないデータを、巧妙に消していくことについても言及している。

 

常時つながる社会になったことの弊害。そして人の心の変化。それは21世紀になって体験する、新しい未来の像のなかでのディストピアの側面。それが古い手法である「羞恥刑」と結びついていく皮肉すぎる展開は、今後の社会学や心理学などで追いついて手を打たないと、ネット社会自体が疲弊してしまいそうな気すらしてしまいます。

考えさせられる、読みごたえのあるルポです。