クラシック好きの休日

隔日更新。特にクラシック音楽と本について。

まるで後期ロマン派~ヴァレーズ『アメリカ』

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昔々、風呂上りの前世紀末の晩にFMラジオをつけた途端、流れてきたオーケストラの響きに釘付けになったことがある。

この音楽の作曲をしたのは誰なのか?何というタイトルなのか?今のようなインターネットも普及していない時代だったので、さっぱりわからない。途中からで悔しいが、それでも空のMDをセットしてエアチェックを始めた。後期ロマン派の残滓が聞き取れる。誰だろう、誰だろう、と妄想をしつつ、演奏が爆音で終わる。そして歓声の交じったノリノリの拍手が続く。

直後のラジオ解説者の説明で、エドガー・ヴァレーズの『アメリ』という作品だとわかる。これが私のヴァレーズ初視聴経験だった。

リッカルド・シャイー指揮アムステルダム王立コンセルトヘボウ管弦楽団によるライブ録音。この頃のシャイーは脂が乗りきっていた。

後半12分ほどの『アメリカ』エアチェック録音を、当時の私は繰り返し聴いて、夢中になった。ライブ録音のCD化も期待して、だいぶ後になって、シャイー&ACOのライブ録音集成を入手してみた。『アメリカ』が収録されていたので、かなり期待した。ところが、どうやら違う日のライブ録音らしく、雰囲気もノリも全然違った。Deccaから出ているセッション録音による全集も、雰囲気が違う。音がどうしても冷静に構えていて、熱くなれない。

結局、当時エアチェックしたMDの音を、PCに取り込んで中途半端な音源だけは救済した(MDの時代が終わったため)。やっぱり、このライブでないと燃えない。サイレンの絶妙なタイミング、オケ全体の一体感。これが頭に焼き付いてしまっている。

 

私の体験はラジオのエアチェックだったけれど、ライブを生で聴いた感動は、もちろん再現ができない。その場合、聴いて観た記憶がいつまでも残る。感動・恍惚が私の中に蔵書として収められて、必要に応じて取り出される。

昔々、前世紀80年代末、プロコフィエフの『ピアノソナタ第7番』を某女子大の音楽部卒業演奏会で聴いたときの、その音楽パフォーマンス性への衝撃はいまだに語ることができる。

 

大切なのは、記録された媒体じゃないのだろう。生きて死んでいく私の記憶のなかに、その一瞬を刻んでいくことが大事なのだと思う。もしエアチェックの完全版がCD化されたとしても、結局しまい込まれて埃をかぶる可能性は大きい。むしろ、途中からで残念なエアチェックだったけれど、すごいノリのライブだった、と覚えているだけでも、豊かな体験だったのだと思う。