クラシック好きの休日

隔日更新。特にクラシック音楽と本について。

挿絵最高!キャンプ成長譚?絲山秋子『絲的サバイバル』

書棚の背表紙が誘い掛けてきたので、絲山秋子絲的サバイバル』(講談社文庫)を読みだした。読んだのはこれで2度目。読んでいて2度とも、私の息子が表紙カバーに食いついてきた。3年以上前だったかは「おじさんの頭にキノコ生えてる」で、今回は「これ毒キノコ生えてる?」だった。よほど子ども心を惹きつける表紙なのだろう。

ま、そりゃ、そうですよね。

絲的サバイバル (講談社文庫)

絲的サバイバル (講談社文庫)

 

紙の本で読んでいると、読んでいる姿とその表紙情報を、家族によく見られているなあとつくづく思う。特に子どもは食いつく。

 

『絲的サバイバル』は絲山さんがあちこちをキャンプして回る体験談。ほとんどが一人キャンプ。皆でわいわい楽しむこともあっても、案内の人が一緒でも、それは食べるときまで。一人で設営して、焚火して、ご飯作って、コーヒー淹れて、お酒もよく飲んで、眠る。そして翌朝ご飯食べて撤収。基本一人。

 

ここまでくると哲学だ。キャンプをすれども、時に人生を語らい、時に感動を共有する、そんなありがちな泊まり方をしない絲山さん。キャンプというツール自体に存在意義を見出したかのような、孤独な楽しみ方。世間の娯楽とのあまりのギャップに、「死体を捨てに来たのではない、死にに来たのでもない」とむなしい自己弁護にすら走る。

 

生活の場の簡易な移動。仕事をするにしても普段の机上の量を上回ることはない。むしろ生活レベルは下がる。それなのに、薄い壁であるテントで一夜を明かす。それなのに、心はキャンプに向かう。

 

角田光代が『なんでわざわざ中年体育』の中で、記録以外の魅力に惹かれてマラソンに励む姿が印象的だったのを思い出す。もちろん記録を更新すれば達成感に浸る。でも、角田さんはマラソン以外のマラソン競技を取り巻く環境(提供される飲料や食べ物)にかなりこだわり、その上で記録を狙っていた。

yomkik2020.hatenablog.jp

片やキャンプ、片やマラソンと扱う内容は違うが、各イベントの主たるモチベーションが彼らの人生の中で本来と違った意味を持ちはじめ、作家活動や生活に直接反映している気がする。

 

絲山さんが家を新築する前に、建築予定地でキャンプするくだりは、「テント=家」の図式すら浮かぶ。絲山さんは仮の殻を脱ぎ捨てる。これは『次郎物語』や『しろばんば』みたいな成長物語を踏襲していないだろうか。

 

なんてね。 深読みしすぎですかね。

 

巻末にはキャンプの心得10カ条が、絲山さんの体験(失敗)をもとに紹介されているので、我こそはと思われる方は便利です。

こういう本こそ講談社の夏の読書フェアで平置きにしてほしいですよね。ナツの大人たちにこそ訴えたい名作。内容も表紙も挿絵もインパクトありますよ。まさかこれを重版してないとかないですよね。(電子ブックの挿絵の有無は未確認なので不明)