クラシック好きの休日

隔日更新。特にクラシック音楽と本について。

タイムカプセルぎりぎり~角田光代『月夜の散歩』

f:id:yomkik:20200831091018j:plain


このあいだは大江健三郎『個人的な体験』で頭を使ったので、角田光代のエッセイ『月夜の散歩』を読んですっきりさせる。

 

角田さんの散歩シリーズは、『よなかの散歩』『まひるの散歩』に続く第3弾らしい(と巻末の既刊宣伝ページで知った)。どちらも新潮文庫で読んだことがある。今回の『月夜の~』だけは近著ということで、オレンジページ発行の単行本。

 

『しあわせのねだん』でガツンとしたエッセイを読んだ後に、『散歩』シリーズを読むと「もっと突っ込んで欲しい」感があるのは、オレンジページの紙数の都合だと思われるのでここはスルー。『散歩』シリーズに共通しているのは、気楽な感覚。

 

角田さんはネガティブか?

それなのに、「根がネガティブ」(『月夜の散歩』p. 98)と自信満々に言い切る。そうなのかもしれないとも思うが、それは『わたしの容れもの』(幻冬舎文庫)を読んだときに「あれ?」と感じた違和感でしかない。『散歩』の内容にはなかなかネガティブは現れない。

それは「オレンジページ」掲載だからだろうか。暮らしに前向きな情報がいっぱい!な雑誌に、角田さんの小説に出てくるような苦悩とか人生のツラさとかドロドロした内面とかを『散歩』の前面に出してこられたら、確かに読み手も困るかもしれない。

www.orangepage.net

 

でも、松岡修造ばりに表面的だけでも「根がポジティブ」と言い切る人って、世の中には就職面接会場以外ではいないんではないか。

 

『月夜の散歩』には食の話題が結構な頻度で扱われていて、さらに人とのつながりの話題がよく出てくる。こういうなんでもない食べながらの人間関係が、角田光代文学の基礎を成しているのではないかと、数十年後の伝記作者に推論されそうなくらい、人付き合いが多い。手料理も振舞う。外国旅行も頻繁に行く。フィクションではないリアルな角田さんの徒然草には、巻き込まれても構わない安心な世界観がある。世代だって私と同じだったりする。片やスクリーンの向こう、片や同じ平面上。

 

単行本で読むのもいいなと思ったのは、写真であったり、タイムリーであったりだからだろう。文庫化はタイムカプセルみたいなものだから。そもそも単行本前に雑誌掲載が2~5年前もさかのぼる。タイムカプセルにタイムカプセルの隠し場所図が入っているような感じ。そうなるとタイムラグは短くしたいところ。

表紙カバーの猫の写真からして、プレミア感あるなあ。文庫ではこうもいかないかもなあ。

 

 

月夜の散歩 (ORANGE PAGE BOOKS)

月夜の散歩 (ORANGE PAGE BOOKS)