クラシック好きの休日

隔日更新。特にクラシック音楽と本について。

スポ根エッセイ~角田光代『なんでわざわざ中年体育』

『なんでわざわざ中年体育』は、角田さんのスポーツへのあくなき挑戦の実話。著者が40代前半に参加したスポーツイベントを、少しづつ書き溜めるだけで、これだけ読みごたえあるエッセイになるなんて、大したものだ。もうこれは「スポ根随筆」と呼べる。

 

含蓄のある言葉も綴られていて、読みながら折り目をつけたページもあった。たとえば、フルマラソンで「猛烈な孤独」に襲われた角田さんに、思いがけず掛けられた声援に、こんな思いを書き記す。

・・・声援って偉大だなあと思った。孤独に作用するのは、頼りにできないながらも、他者なんだなあと思い知った。(p. 148)

 

スポーツイベントは全国各地で開催される。そこに参加するということは、すなわち開催される土地との心のつながりが生じる。各地の良さを、スポ根という成長譚と絡め合わせつつ、描かれているわけだ。一つのテーマ(スポーツ)から土地の息遣いを引き出している。こういうの、文芸的になにか新機軸に発展するようにも感じる。

もちろん、表紙が象徴するように、「スポーツが得意でない人がとりあえず楽しんでみた」視点のゆるいエッセイ集。視線の高さが読者と同じだけに(私もスポーツ全般が苦手)、意識の上だけでもフルマラソントレイルランニングに、「あ、なんかやってみたいかも」的な向上心が湧いてくる。少なくとも「トレーニングウェアだけでも」と思ってしまう。

 

巻末に「中年体育心得8カ条」でしっかり締めてあり、中年諸君へのアドバイスを簡潔にまとめてあるのが優しく、また分かりやすくて嬉しい。

あとがきの、50代を過ぎた角田さんの想いも、ぜひ大切に受け止めてみたい。

2016年単行本刊行 2019年文庫化

 

なんでわざわざ中年体育 (文春文庫)

なんでわざわざ中年体育 (文春文庫)