クラシック好きの休日

隔日更新。特にクラシック音楽と本について。

見る者と見られる者~オースター『幽霊たち』

冒頭の1ページ目で行き止まってしまう本は、たくさんある。でも、簡易な文章で、哲学的でもなく、人気の作家なのに、最初のワンセンテンスでつまづいた。ポール・オースター『幽霊たち』がそれだった。

「まずはじめにブルーがいる。次にホワイトがいて、それからブラックがいて、そもそものはじまりの前にはブラウンがいる」(ポール・オースター『幽霊たち』柴田元幸訳、新潮社、p. 5)

これは悪文だと思った。私にはその文脈が理解できなかった。それでほったらかされて積読になって、また最近掘り出された。近著の単行本『冬の日誌』を立ち読みした時、これはっと惹きつけられたので、オースターはやっぱり避けては通れなさそう。

悪文は最初の2~3ページ以降、解消されてゆく。ほんとうは悪文なんかではなくて、巧妙な手法だったのだと思う。

理不尽な調査依頼に巻き込まれていく私立探偵ブルー。単調な監視のあいだに、普段忘れていた記憶や、気づきが渦巻いていく。過去との対峙がいくつも出てくる。

「書物はそれが書かれたときと同じ慎重さと冷静さとをもって読まれなければならない」(同上、p. 63)

これは調査対象のブラックが読む本、ソロー『ウォールデン』にある文章。なにげに大切なワードが盛り込まれている。

この本は、一読目は、一日で一気に読み切る、というのがおすすめの読み方。

ひとつの舞台を観劇するように、目を離さない。再読して細部を吟味するのがいい。エピソードも含め、時間と空間の客観的な表現がシンプルかつ含蓄のある、真似しようとしても無理な高度なものでした。近々、オースターの文庫だけでも集めようかと、ひそかに計画進行中だったり。

1986年原作刊行、1989年邦訳単行本刊行、1995年文庫化

 

幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)